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データサイエンティストになりたい、と夢想しながら読書記録を書くブログです。

無が一番いいのだー「人生に生きる価値はない/中島義道」

筆者のエッセイ集。軽妙な口調で、問題の深淵をバサバサと切り落とす印象。

 

中島氏の文章を読むと、ああ、自分もこのように濃淡はっきり生きられたら、どんなに良いかと感じることがある。実際は辛い事の方が多いのであろうが。

 

さて、そんな「人生に生きる価値はない」という本だが、私が特に惹かれた文章は以下のものである。

…私は「無が一番いいのだ」という漠然とした直観を抱くようになった。空間も、時間も、物質も、意識も、文字通り何もないとすれば、どんなにラクであろう。われわれは悩むことも悲しむこともない。死を恐れることも後悔にむせぶこともなく、他人と比較してわが身の不運を愚かさを嘆くこともない。とはいえ、私は自殺したいわけでもなく、ことさら世界の終焉を望んでいるわけでもない。この世はじつはもともと「無」であることが次第に判明してきたからである。…ここに仕掛けられている巧妙な仮説をあばいて、心の底から「無が一番いいのだ」と悟るようになること、これこそ私にとって唯一の生きる価値なのであり、哲学することなのである。(P271)

私はこの文章に、勇気を与えられた。人生に価値はない、「無が一番いいのだ」という仮説を立てながらも、その証明(つまるところ実感)のために、学問していくことに生きがいを見出している。逆説的な姿勢であるが、なんと正直で偽りのない姿勢であろうか。

 

私もかつては、厭世的な一面があった。人生に意味はなく、ただゲームのような暇つぶしのような存在であると思っていた。全ての意思や行動は、過去に生じた出来事による結果であり、我々は見えざる手によって突き動かされている存在にすぎない。そう感じていた。だが、その仮説を前に、ただ腐ってゲームを投げてしまうのではなく、本当にそうなのかと確認することに熱意を燃やす。そしてその仮説が真であったならば、「やはりそうか」と納得したまま死んでいく。そこに私は、はかなくも美しい、人類のすべてが背負った運命を、あざ笑うような姿勢を感じられて、かすかな満足感を抱くのである。

人生に生きる価値はない (新潮文庫)

人生に生きる価値はない (新潮文庫)