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ウサギの戦力は、速い脚より大きな耳~「大本営参謀の情報戦記/堀栄三」の備忘録

大本営参謀の情報戦記を読む。第二次世界大戦中の、日本における情報収集・解析専門家の記録である。とあるサイトでデータサイエンティストとしてバイブルと記載されていたので、読んでみた…名著であった。 

情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記 (文春文庫)

情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記 (文春文庫)

 

 

要は、情報を軽視した国家は競争に負けてしまう、ということであり、これからの国家や企業は、情報力を高めていかなければならない。特に日本は情報力を高めることが難しい。系統だった教育機関や研修機関があるわけではない。既に専門家として動いている人から、何かしら学びを掴んでいくしかないのかもしれない。

 

情報の仕事は職人のそれのようなものである。教えてくれといっても教えてもらえないし、専門の教科書があるわけでもない。ただ自分がこれを天与の仕事と思って取り組んだ時に初めて、経験者の体験が耳に入り、それを咀嚼し仕事に活かし、上司の片言隻句から自分で自分を育てていく以外にない。中野学校にはそれなりの教科書もあったが、情報の分類・整理・統計の容量の指導書にすぎなかった。いま、この立場においていかに判断し、それをいかに処理するかを、手を取り足をとって教えられるものではない。むしろ戦史を研究し、その中からそれぞれのヒントをつかみ取るのが近道であった。(P165)

 

なんにせよ本には非常に示唆に富む言葉が多かったので、以下に記す。

 

まずこの本では戦術についての解説を語らせる。「いまこの場面で相手に勝つには、何をするのが一番かを考えるのが戦術である。」

枝葉末節にとらわれないで、本質を見ることだ。文字や形の奥の方には本当の哲理のようなものがある、表層の文字や形を覚えないで、その奥にある深層の本質を見ることだ。世の中には似たようなものがあるが、みんなどこかが違うのだ。形だけ見ていると、これがみんな同じに見えてしまう。それだけ覚えていたら大丈夫、ものを考える力ができる。(P21)

そのために情報というものの取り扱いには注意しなければならない。「情報とは相手の仕草を見て、その中から相手が何を考えているかを知ろうとするものだ」ともいう。だが、相手の心や手の内はなかなか知ることができないため、合理的・非合法の方法を組み合わせ、情報を収集していく。それでも、情報は非情なものであり、欲しいと思う情報は来てくれず、不完全な霧に包まれたような情報がメインとなる。欲しいものが二分、ぼんやりしたものが三分、あとの五分はまったくの白紙か暗闇のようなもの。だから、常に徴候を集めてそれを通して相手の中枢の意思を探ることであり、一つの徴候だけでわからないときは、時に鉄砲の一つでも打ってみる。そうすると別の徴候がまた表れ、霧が少しずつ晴れてくる。

 

なお、本の中途では、以下のようにも述べられる。

しょせん戦略の失敗を戦術や戦闘でひっくり返すことはできなかったということである。(P145)

第二次世界大戦の戦略とは、太平洋という戦場の特性を情報の視点から究明し、軍の主兵を空軍とし、鉄量には鉄量をもってする、ということである。

 

また戦争におけるアメリカの姿勢も学ぶところが多い。なんでも、米国が日本との戦争を準備したのは大正十年からであり、その前から情報戦争はすでに開戦していて、情報の収集が行われていたとか。将来的に競争相手となりそうな存在に対しては、早々に情報を収集していく。一方、日本の情報網は、米国本土に対しては一番穴が開いていたという。アメリカは、戦争早々に日系人を強制収容していたし、スパイも使っていた。このありさまに、著者は「情報的にもっと成長せよ、そして冷厳であれ」と述べる。

 

その上で米国は飛び石作戦を取り、占領空域を推し進め、戦争を有利に進めていった。主兵は空軍であり、陸軍は補助兵であった。

国が戦争をするには、それだけの情報上の準備が必要であって、眼前の感情に動かされて、興奮して立ち上がるものではない。(P93)

そして情報は複雑怪奇なもので、まず疑うことが第一ともいう。実に取り扱いが難しい。また日本はそれまで二流、三流軍を相手に戦うことが多かったため、感覚が鈍っていた。勝ちが続くことは、次への負けへの橋を塗り固めているのかもしれない。「治にいて乱を忘れ」ては、惰眠をむさぼることとなり、競争相手からは開きが産まれるのだ。

情報は常に作戦に先行しなければならない。…日本の情報部も、開戦直前まで北方ソ連の方を見ていて、太平洋では惰眠をむさぼっていたのだ。その惰眠のために、何十万の犠牲を太平洋上に払わせてしまったかと思うと、情報部もまた、少々の後悔や反省だけでは済まされないものがある。(P158)

感情で情報不感症になってはいけない。自分たちの友軍の戦力も冷静に把握しなければならない。使えないものは使えないと割り切る。感情が入ると、独りで将棋を指す作戦課的思考になってしまう。そして情報の感度を高めるために、「職人の勘」を働かせるために、平素から広範な知識を、軍事だけでなく、思想、政治、宗教、哲学、経済、科学など各方面にわたって、熟知していかなければならない。

 

日本の情報が不十分であった理由については、アメリカが以下のように分析している。

1.国力判断の誤り(ドイツが勝つと断定していた)

2.制空権の喪失(航空偵察の失敗→確度の高い情報を逃す結果となった)

3.組織の不統一(入手した情報を役立てられない)

4.作戦第一、情報軽視

5.精神主義の誇張

 

アメリカは、徹底して情報を重視し、そして感度が高い国である。これは遠い過去のことではなく、情報に携わろうとする人すべてが読むべき名著だと感じた。