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データサイエンティストになりたい、と夢想しながら読書記録を書くブログです。

社会心理学講義/調理場と言う戦場/ウソを見破る統計学

本の概要

A 社会心理学講義 by 小坂井敏晶

フランスの大学修士課程の学生を対象に行った講義をもとに構成。認識論や影響理論を中心としつつ、社会心理学の考え方について批判的に検討。内容に対してかなり面白く、考えに幅を持たせることができる。

 

B 「コート・ドール」斉須政雄の仕事論 by 斉須 政雄

コート・ドールというフランス料理店長による、回顧録。23歳で単身フランスに渡り、やがては日本で3つ星レストランを経営するまでに至った経験を述べ、その中で仕事論について語る。エッセイに近い感じで、読みやすい。

 

C ウソを見破る統計学 by 神永 正博

大学教授とそのまわりの人の対話を通じ、社会の事象を統計学的な見地から解説する。よくある「データをきちんと読みましょう」というデータ・リテラシーの話を混ぜつつ、統計学の基本的な事項を学べる(というか復習)読み物。 

 

所感 

 私がAから学んだ点は3点。①学問に対する姿勢(現在の社会心理学に対する批判)、②自由意思の脆さ(影響理論)、③社会の格差、についてである。

①学問に対する姿勢

 心理学は他分野との交流が乏しくなり、研究発表も内輪でしか行われない。その心理的背景には、研究者に熱をもった課題意識が伴っていないからだ。学者や学説の研究を行うだけで、精神や人間の条件を理解しようと試みる姿勢に乏しい(ジェロームブルーナー)。

 また常識的な概念から逃れることができず、その主張も極めて凡庸である。自然科学者は滅茶苦茶なことを平気で提言する。常識を一旦棚にあげて、理論に独り歩きさせることが大切である。矛盾が現れても、それを総括させることで、新たな真理が見つかることもある。

 Bにおいても、同様に「新しいものって、やっぱりはじめはちょっとヘンなものに見える」と述べている。ただこの主張に1点補足するならば、Bでは「努力した上で、基礎を作りあげる。その基礎は、広がりと応用性を備えたものになる」と言う。この基礎があってこそ、新しい仕事ができるのではないか。と思う。

 とはいえ、人文・社会科学から滅茶苦茶な主張が現れ、世間に認められることは少ない。人文・社会科学の研究とは、自分自身の疑問につきあい、己を知るための手段である。本当に必要なのは、自分自身と向き合うことであり、その困難を自覚すること、それだけだと筆者は言う。

 同様に、筆者は近年の研究者の卵の姿勢に対しても叱咤している。実証研究の結果だけで物事を判断すべきではないと。科学が発展する上で実証以上に哲学的思索、そして自由な想像力が重要な役割を果たす点を見落とすな、と。そもそも、理論の正しさを確かめるために実験をするという発想自体をつまらないと切り落とす。逆に、理論の不備を露わにすることで、慣れ親しんだ世界像を破壊し、その衝撃から、さらに斬新な理論が生まれるきっかけを提出することこそが実験に本来期待されるべき役割だと。

 Cでは、一般的に流布する主張や常識も、正しいデータを基に見破ることを説く。Aはそのさらに先を行き、実証研究の結果を適切に見抜き、その上で哲学的思索や想像力を働かせることが重要と読み取れる。データそのものを破壊することも、時には必要なのだ。

 まず何かに対して本質的な疑問をもち(例えば、「時間」とはなにか)、その結果として誰か著名な哲学者の勉強をはじめるのが筋だと言う。そして、何十年もその問いと戦い続け、あらゆる分野の学問を駆使し、問い続けていけば、おのずと自分固有の見方が生ずるのである。

研究のレベルなど、どうでもよい。どうせ人文・社会科学を勉強しても世界の問題は解決しません。自分が少しでも納得するために我々は考える。それ以外のことは誰にもできません。社会を少しでも良くしたい、人々の幸せに貢献したいから哲学を学ぶ、社会学や心理学を研究するという人がいます。正気なのかと私は思います。そんな素朴な無知や傲慢あるいは偽善が私には信じられません。

 人生なんて、どうせ暇つぶしです。理由はわからないが、やりたいからやる。それが自分自身に対する誠実さでもあると思います。

 

 

②自由意思のもろさ

 人は行為の出発点として<私>を設定したくなるが、それは自律幻想であり、誤りである。人の物理的行動と脳の機能を比較すると、行動の方が先にくるという。心は脳の中にない。脳以外の身体諸器官、そしてそれらに影響を与える環境に宿っているというべきである。心は、環境の中に拡散し、論理は無限遡及に陥り、行為の原因<私>は雲散霧消する。人間は合理的な動物ではなく、合理化する動物である(フェスティンガー、河野哲也「環境に拡がる心」)。

 Bでは、行動が先に来ることから、真剣な行動や「切実な行動」を積み重ねていくことの重要性を説く。これを積み重ねていくことで、色々な人が介在してきて、だんだんと形になるという。これは、「切実な行動」により自分の中の<私>が真剣になり、またその行動の積み重ねが他者へも影響していき、やがて自分のもとに返ってくるのではないか。行動が意志を決め、そして環境をもつくる。 

 なお、自律幻想や根本的帰属誤謬は、同一社会内で社会階層を上昇するほど、学歴が高いほど、強いとのこと。虚心坦懐な意識を持つことが出発点かもしれません。

 ここはイマイチ根拠がよく分かりませんでした。Cの視点から言うと、学歴が高いとは何か、社会階層が上昇とはどういう意味か、と明確にすべきでしょう。

 

③ 社会の格差

 社会の格差とは、納得性を考慮する必要がある。小さな格差こそが問題をはらむ。明白な差は誰にでも納得できるが、小さな違いについては自分の劣等性を受け入れ難い。人は比較の中に生きている。すべての人間を平等に扱う社会は実現しえない。

 このため、社会の格差を正当化するメカニズムがいつの世でも必要である。カースト制度は区別の根拠が神という共同体の<外部>に投影され、社会は安定する。また個人の能力により社会上昇する可能性があれば、可能だと言う幻想が保たれれば、不満は大きくならない。不平等の現実にもかかわらず社会構造自体の是非は問われない。貧富の原因が各人固有の能力に帰されるからである。

 またAでは、弱者による社会での上昇ケースについても述べられている。強者と同じ生活環境にいれば、弱者は淘汰される。しかし同じ環境に生息しても、異なる種の個体ならば共存が可能である。人間の世界も同様に職業上の棲み分けが進み、そこで主流派と比較できない分野に特化する傾向が生まれた(デュルケム「社会分業論」)。 

* 

結論と今後の生活への活用

①行動を正す。そのために、行為を外的に規定する習慣やフレームワークを作成する。

②自分の中で、根源的な問いを1つ持ち、それに絡めた読書をする。

 

社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)

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ウソを見破る統計学―退屈させない統計入門 (ブルーバックス)

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